風邪が不登校・うつ・無気力の原因に!?【風邪によるメンタル疾患とは?】
要約
- 感染症が引き起こすメンタル疾患
PANDAS (連鎖球菌感染症に関連する小児自己免疫性精神神経障害)
PANS(小児急性発症精神神経症候群)
- 原因
- 症状
- 早期の原因検索・治療が重要
この記事の執筆者、山根理子(環器内科学医学博士(日本内科学会認定 総合内科専門医、循環器専門医、漢方専門医))です。
感染症が引き起こす情緒不安、うつ症状、学力の低下、不眠、脅迫性障害、発達障害、ADHD様症状について、お伝えします。
※強迫性障害
強い不安や恐怖、こだわりがあることで、「やりすぎ」とも言える考えや行動を止めることが出来ず、日常生活に支障が出てしまう病気のこと。
風邪が不登校・うつ・無気力の原因【風邪によるメンタル疾患とは?】
学校へ行けなくなってしまったお子さん、
不登校になる前に、風邪の症状はなかったでしょうか?
実は、日本ではほとんど知られていませんが、
- PANS(小児急性発症精神神経症候群)
- PANDAS (溶連菌感染症に関連する小児自己免疫性精神神経障害)
という疾患があります。
PANS(パンス)、PANDS(パンダス)と呼び名は、パンダ🐼みたいで可愛らしい感じがしますが、本人もご家族も大変な思いをする辛い疾患です。
比較的最近になって、言われ始めた疾患です。
感染症の後に、不安、強迫観念/強迫症状、神経性食思不振症(拒食症)、チック、ADHD様行動、学習障害などを起こしてきます。
原因
原因は、「感染症に関連した免疫システムの誤作動」です。
免疫の仕組みは、本来、外部からの細菌やウイルスの侵入に対して、体を守るために自動的に働く防御機構です。
正常の状態では、体内に入った細菌やウイルスに対して抗体が作られ、その抗体が細菌やウイルスを撃退して体を守っています。
しかし、特定の細菌、ウイルスにさらされると、免疫システムがおかしくなり、病原菌だけでなく、健康な自分の脳も攻撃する抗体(自分自身を攻撃する自己抗体)が作られてしまうお子さんがいます。
PANS(パンス)、PANDAS(パンダス)では、免疫の誤作動が起こり、感染によって作られた自己抗体(自分自身を攻撃する抗体)が、正常な脳を過剰に攻撃します。
この誤った反応が、脳に炎症を引き起こし、性格の変化、脅迫行動やスキル・能力を失うなどの症状を起こします。
この疾患を起こすきっかけは、感染症の重症度に関係ありません。
肺炎で入院する位の中等症以上の症状の強い場合だけでなく、鼻風邪くらいの軽症でもPANS・PANDASを発症します。
あまり症状が出ず、気づかないうちに感染している場合もあります(不顕性感染)。
感染症の原因となる病原菌が
溶連菌の場合は、PANDAS (溶連菌感染症に関連する小児自己免疫性精神神経障害) 、
溶連菌以外の場合は、PANS(小児急性発症精神神経症候群)
と言います。
PANDASは、PANSの中の1つ(一亜型)と言われています。
PANSの原因菌は、
- 鼻風邪や喉風邪の原因ウイルス
- マイコプラズマ
- インフルエンザウイルス
- EBウイルス
- ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム病)
- 単純ヘルペス感染症
- 水痘(水ぼうそう)
などがあります。
このように、多くの感染症がPANSの発症に関連していることがわかります。
症状
鼻風邪や発熱などの後に、急に(ひどい場合は、一晩のうちに)、または、少し経ってから、下記のような症状が複数始まります。
急に発症した強迫性障害(強いこだわり)または、摂食制限(偏食)のどちらか一つがあり、その上で次のような症状が2つ以上ある場合はPANS/PANDASが考えられます。
強迫性障害(強いこだわり)とは、不潔に思えて必要以上に何度も手を洗う、物事をするときに何度も確認する、物の順番や左右対称で並べること・おまじないのような儀式的な行動・自分の決めた手順にこだわるなどです。
摂食制限(偏食)とは、拒食症になる、今まで食べられた特定の食べ物を受け付けなくなる等の食に関する変化です。
- 分離不安:愛着のある人や家(通常は母親)から離れられない、パニック、その他の不安が出る。
- 赤ちゃん言葉に戻るなど、年齢相応よりもはるかに幼い行動をするようになる(今までより幼い行動をとるようになる)。
- 情緒不安定、重度のうつ病になる。
- イライラ、攻撃性、および/または極度の反抗的な行動をとる。
- 学校の成績の低下: 数学と読解力、記憶力、集中力の突然の低下。多動性の増加。
- 運動異常または感覚異常: 文字や絵が劇的に悪化し(退化にも関連している)。騒音や光によって苦痛を感じる、感触や匂いに敏感になる。
- 睡眠障害
- おねしょをするようになる、頻尿になる。
- チック(まばたき、目をまわす、肩をすくめる、咳払い、「アッ、アッ」と声を出すなど)
他に、多動、不注意な行動が目立つようになる、などの症状が見られることがあります。
ADHD(注意欠陥・多動症)や学習障害のお子さんの中にもPANS・PANDASのお子さんが含まれていると思われます。
メンタルへの影響だけでなく、体内に炎症があるため、慢性的に寝ても取れないダルさ、持続的な疲労感など身体的な症状も引き起こされます。
また、脳の炎症のため、何かやろうとする気力がなくなります。好きなことでもやる元気がなくなったりします。
このような事情で、何日もベットから出る気力が出ない、などにつながります。
PANS/PANDASのお子さんの親御さんの中には、まるで、「別人になってしまったようだ。自分の子がいなくなって、別の子がやってきたみたいだ。」とおっしゃる方もいます。
PANS の子供の多くは汚染、窒息、嘔吐に対する強い恐怖のために食べ物を拒絶するようになります。今までは大丈夫だった特定の食べ物に、嫌悪を示すようになったりします。これは拒食症に発展する可能性があります。
以下のように(感染症後に出てきた)症状が軽い場合、お子さんの変化に気づかないことがあります。
友達の視線が辛い(教室の圧がダメ)、なんとなく不安で学校に行けない、睡眠障害が出て朝起きられない、自分でも何だかわからないけど気力が出ない位の症状だと、本人が気が小さいだけと性格の問題と捉えたりします。
お子さんも、自分の現状を、自分でもよくわからなかったり、うまく言い表せない、言いにくい場合もあります。
早期の原因検索・治療が重要
この疾患がお子さんの不登校と関連があるか、お子さんのご様子を経過を追って詳しく聞き、検査をしていくことが必要です。
この感染症の原因菌やウイルスの検査は、海外のバイオロジカル検査で調べられます。
症状が現れてから、早期に原因を調べ、それに対する治療に早く取り掛かることが非常に大事です。
放置すると、症状が進行したり、脳の慢性炎症になるリスクが高まります。
そうすると、不安症状が長引いたり、固定化されて治りづらくなったりします。
学習が進まない状態が続き、また、今まで出来ていたことが出来なくなったまま(学力が後退したまま)、再度学習するにも学びづらい状態になったりします。
できるだけ早期に治療を始めた方が、進行を食い止められ、症状が安定しやすいですが、一度良くなってもまた、ぶり返すことがあります。
フレア(flare)
「flare」とは、英語で炎を意味します。
PANS/PANDASでは、炎がゆらゆら大きくなったり、小さくなったりするように、症状が治療で良くなった後でも再発することがあります。このような状態を「フレア」と言います。
再発した場合は、その都度、治療をして症状を抑えます。脳の炎症を鎮め、脳の破壊が進むのを抑えます。
治療を続けていくうちに、炎のゆらめきも小さくなっていきます。
お子さんの場合、成長過程であるため、成長発達がPANS/PANDASのせいで途中で止まってしまったり、退行(後戻り、幼児化)してしまっていても、気づかないことがあります。
「ただ、引っ込み思案な子ども」、「少し心配性な子」、「頑固な子」、「甘えん坊」などと、PANS・PANDASにより出ている症状を「そのような性格」と捉えている親御さんも多いようです。
また、学習に影響が出ている場合も、学年が上がって勉強が難しくなってきたら、勉強ができなくなってきたと、勘違いしていらっしゃる場合もあると思われます。
PANS/PANDASになっていても、症状が現れるのが緩やかなタイプだと、熱や風邪を引いてからしばらく経った後に、精神症状やその他が現れることでも、感染症が原因だとわからなかったりします。
さらに不顕性感染(症状が殆ど現れない感染)の場合もあるため、この疾患であると見つかりづらいこともあるようです。
PANS/PANDASのお子さんの親御さんは、お子さんの変わりように対するショックやどうしたら解決するか光が見えない、お子さんの苦しんでいる姿に耐えなれない、重症の場合は24時間体制でお子さんの見守りが必要など、大変辛い思いをしていらっしゃると思います。
ぜひ、このような疾患も疑って、治療に繋げていただきたいです。
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