漢字を書くのが苦手【不登校を克服!】
要約
漢字が書けない、覚えられない、漢字が苦手になる原因は以下のようなものがあります。
- 字が見えづらい?背景の色が原因!
- 視力は大丈夫だけど、見る力が弱い!?
- 体性感覚(手足の状態・筋肉の伸び縮みや関節の動きを感じる感覚)が弱い
- 目と手の協調作業が苦手!
- 有害環境化学物質やカビ毒による脳への影響
- PANS・PANDAS(風邪などの感染症による脳への影響)
この記事の執筆者、山根理子(循環器内科学医学博士( 総合内科専門医、循環器専門医、漢方専門医))です。
「漢字が書けない」「漢字が覚えられない」「なぜなの?」と、お子さんが学校での学びを難しく感じられているかもしれません。しかし、それはお母さんやお子さんの努力不足ではありません。
そんな状況に対して、あなたは、「この子のやる気や努力の問題かな…」または「私の接し方や教え方が悪いのかな…」などと思っていませんか?
でも、実は、子供のやる気や努力が原因ではないケースは多いです(特に不登校の子の場合)。もちろん、あなたにも原因はありません。原因は別のところにあるケースも多いんです。
この記事では、「書くこと」が苦手なお子さんと向き合うお母さんに対して、具体的なサポートとアイデアを提供します。
適切なサポートや治療をすることで、お子さんが自信を持ち、成長できる道があります。一緒に歩みながら、新たな可能性を見つけましょう。
目次
漢字を書くのが苦手【不登校を克服!】
不登校のお子さんのお母さんのお話を聞くと、「うちの子、漢字を書くのが苦手なんです。」とおっしゃるお母さんが多いです。学ぶスピードや理解力に問題はないのに、書取りが苦手ということです。
複雑な形の漢字が上手く書けなくて、学校に登校することに苦手意識を抱いてしまったり、自信を失ってしまったりすることがあります。
しかし、特性に応じた学び方や能力を引き出す方法があることを知っていただきたいのです。
お子さんが書くことに問題があることを知った時、多くの疑問や不安が頭をよぎるかもしれません。しかし、ご安心ください。この記事では、お子さんを支えるための具体的な方法をに取り上げています。
この記事が、「不登校…」「漢字が書けない…」という状況に向き合う、あなたとお子さんにとって、新たな道のりの一歩目となり、光と希望を見出していただければ幸いです。
注意:この記事では紹介しきれない様々な症例があります。お子さんの個人差もあります。なので、原因や対策の最終的な特定は、必ず、必要な検査を経て、専門家や専門医に相談し、決めるようにしてください。
字が見えづらい?背景の色が原因!
紙の白さを敏感に感じ取ってしまい、文字の黒さと紙の白さのコントラストで目がチカチカしてしまうお子さんがいます。
私たちは、目から入る光の刺激が、脳に伝わって、明暗・光の方向・物の色などを認識しています。この目から入る光の刺激に対する脳の認識が、人によって違います。
明暗・物の色など光の刺激が、脳で過剰に強く感じられるせいで、文字の黒さと紙の白さのコントラストで目がチカチカするお子さんがいます。
「目がチカチカしてしまう」とは、下の図のような強いコントラストだと、非常に不快に感じて見づらいのと同じような感じです。
この「強いコントラストが不快で見づらい」というパターンは、文書にも多く見られます。
お子さんによっては、このような文章が、最初にあるストライプの図のように見えて、「目がチカチカして見づらい」と感じます。
このコントラストが強いために見づらい状況だと、
- 目が疲れやすくなる
- ミスが増える
- 白さが眩しくてどこを読んでいたかわからなる
などが起こります。
低学年の時は、1ページに書かれている文章の行数が少ないため気が付かず、3〜4年生あたりから行数が増えてくることで、学習のしづらさが出てきたりします。
このような場合、文章を書き抜いてノートに写すことや、新しい漢字や単語の抜き出しにも非常に苦労します。
紙の色を白ではなく、コントラストが強くない色のノートを使ったり、色付きメガネを使ってみると、目のチカチカが緩和されます。
そうすることで、見えやすくなり、難しい形の漢字でも、しっかり字のつくりを見て確認することができるので、書けるようになります。
他に、教室の窓側の席で直射日光が当たる場合や、蛍光灯の光が直射日光のもとで本を読む位に強く眩しく感じられ、見えにくい場合などもあります。
対策としては
- 色付きメガネを使ってみる
- カラーシートを使う
- 教科書を色のついた紙にコピーして読み、ノートは色のついた紙を使う
- テスト用紙は色のついた紙に印刷してもらう
- 光のあたり具合によって、座席の配慮をしてもらう
- パソコンなどのディスプレイは、輝度と彩度を下げ、カラーフィルターを設定する。ブルーライトをカットするフィルムを貼る。
などの対策をすると見えやすくなります。
このような目のチカチカは、小さい時からあったので、他の人とは感覚が違うことや、自分は光に敏感だということを、お子さん本人はわかりません。ですので、自分から言い出すということはありません。そのため、周りの大人も気づかずにいることが多いです。
お母さんの方から、背景の色を変えてみて見えやすさが変わるか、お子さんに聞いて確認してみると良いでしょう。
字と背景の紙のコントラストの問題で、字が見えづらく、漢字の書き取りが上手くいかない場合があります。
下のいろいろな背景の紙色で、文字の見えずらさ・読みずらさが、色によって改善するかどうか、試してみてください。
どの背景の色がお子さんに合うかは、個人差があり、お子さんそれぞれで違います。
背景の色によって、見えやすさが改善するようでしたら、カラーシートやカラーレンズ眼鏡を使って勉強すると、漢字の細かい部分も見えやすくなり、スムーズに勉強しやすくなります。
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視力は大丈夫だけど、見る力が弱い?
学校検診などで視力に問題がなくても、お子さん自身は実際にものが見えにくいという場合があります。
一般的な視力検査は、5 メートル 離れたところから一部が切れている輪がどこまで見えるかを検査し ます。
しかし、私たちは 5 メートル先だけ を見て生活しているわけではあり ません。
10 メートル先をみたり 30センチのところを見たり、止ま っているもの、動いているものい ろんな距離や物を見続けていま す。それが「見る力」です。
実は、見るためには、視力だけでなく、見たいものに視線やピントを合わせたり、色や形を見分けたりする視力以外の別の力も必要なのです。
ですので、下記のような問題があると、学校検診の視力に問題がなくても文字を書くことに困難さが出ることがあります。
- 見たいものを、目で追いかける力が弱い
- 視線のジャンプが苦手
- 両目のチームワークがうまくいかない
最近のお子さんは、外遊びの時間が少なく、家の中でゲームなどをして過ごすことが多いため、動くボールを目で追いかけたり、遠くの景色を見たりすることが少なくなっています。
①〜③のそれぞれについて、ご説明していきます。
1) 見たいものを、目で追いかける力が弱い
動いているもの、止まっているものに関わらず頭を動かさずに目で対象物を追いかける眼玉の運動(「追従性眼球運動」)の能力のことです。
この眼玉の運動の能力とは
- ボールの動きを目で追いかける
- 文字の書き順を覚える
- 一点を見つめ続ける
などに関係する能力です。
この目の能力に弱さがあると、キャッチボールをするときに、うまくボールを捕ることができなかったりします。
漢字を書くときに、この眼玉の動きの能力(追従性眼球運動)が弱いと
- 見本の字を筆順に沿って眼で追うことができない
- 鉛筆の芯の動きに視線を合わせ続けることができない
などが起こります。
鉛筆の動きに合わせて目線を合わせることができないと、字のバランスが悪くなったり、書くこと自体が大変な作業で、苦痛になってしまいますね。
この能力が弱いかどうかは、次の図で確かめて見てください。
同じマークから同じマークへの線を、指やペンでたどっていくのに苦労する場合は、眼玉の動き(追従性眼球運動)が弱い可能性があります。
このような図で線を追っていく練習をするのは、この眼玉の動きの能力(追従性眼球運動)を改善するのに役立ちます。
2) 視線のジャンプが苦手
文字を書き写すときには、
教科書の新しく習う字を見る
↓
書き始めるために、ノートに目を移す
↓
合っているか、もう一度教科書を見る
↓
ノートの書いた字を見て確認する
という具合に視線を何度もジャンプさせて、素早く目を動かして、あっちを見たりこっちを見たりを繰り返します。
これには目玉を素早く動かして、見えたものの中から、正確に、自分が必要な部分だけの情報を得るために必要な能力です。
あっちを見てこっちを見ての視線のジャンプが苦手だと、字の書写し、黒板を写して書く板書、筆算で繰り上がり繰り下がりなどで上下に目を動かすこと、分数の掛け算の約分などが苦手になります。
2つの並んだ絵の中から間違い探しをするなどが苦手なお子さんは、視線のジャンプが苦手である可能性があります。
3) 両目のチームワークがうまくいかない
ものを見る時には、左右2つの目を使ってみます。近くのものを見るときは両目を真ん中に寄せて、遠くのものを見るときは両目を離してピントを合わせます。
この両目を連携せせてものを見る能力が弱いと、ものが二重に見えたり、ものとものが重なって見えたり、距離感や立体感がつかみづらくなります。
またよく物にぶつかったり、目が疲れやすかったりします。
両目の連携がうまくいっているかは、ブロックストリングスを使って確かめます。このブロックストリングスは、両目の連携の能力を高めるトレーニングにも使います。
以上の「視力は大丈夫だけど、見る力が弱い」に関して、見る力を改善させていくための医師監修のトレーニングの方法があります。このトレーニングを少しずつ続けることで、書く力の改善を目指していきます。
体性感覚(手足の状態・筋肉の伸び縮みや関節の動きを感じる感覚)が弱い
体性感覚とは、
- 皮膚への刺激(圧力や振動、温度の変化)を感じとる触覚
- 筋肉や関節で、体の位置や動きや体に加わる抵抗や重力を感じる深部感覚
があります。
この体性感覚が弱いと字を書くのが苦手になります。
文字を書く時には、紙と鉛筆の摩擦による感覚や鉛筆を動かす時の指への圧力の変化などを手のひらで感じ(触覚)、それが腕や肩などの筋肉、腱、関節などのへ伝わり(深部感覚)、それらのの情報が脳に送られまとめられ処理されることで、文字が書けるのです。
ですので、この体性感覚が弱いと、文字を書くことに困難さが出てきます。
解決方法として、
- 太めの筆記具を用い、手の指が触る面積を広くすることで触覚情報が得られやすくする
- 2B や 4B のような柔らかい芯の筆記具を使用して、紙からの摩擦抵抗などの刺激をより感じやすくさせ、筋肉、腱、関節からの脳への情報が伝わりやすくなるようにする
- 空書き(空中で文字を各練習)をさせる
などがあります。
他にも医師監修のトレーニング方法があり、お子様に合わせたに方法を行っていただくと良いです。
目と手の協調作業が苦手!
私たちは、手と手、手と目、足と手などのそれぞれ別の動きを一緒に行う運動(協調運動)を行って、色々な作業をしています。
例えば、私たちがキャッチボールをする時、ボールを目で追いながら、ボールをキャッチするという動作を同時にしています。
文字の書写しの時に同時に行っている複数の動作とは
- 座った姿勢を維持しながら教科書を見て
- 視点を教科書からノートに移動し
- 左手をノートにそえながら
- 右手で文字を書き写す
というように、複数の動作を同時にします。
一度に別々の体の部分を同時に動かすことが難しいのが、協調運動障害です。同時に動かす動作の中に、バランスよく動かしたり、細かい指先の調整が入ると、難しさが増します。
文字を書くという動作は、姿勢を保つ、視点を何度も素早く移動する、左手と右手で別々の動きをするという、何個もの動作を、一度に体の色んな部位をバランスをとりながら調整してやる動作(協調運動)で、さらに指先の細かい調整もあり、難易度が高いです。
協調運動に関するエクササイズをすることで、少しずつ改善する可能性があります。
有害環境化学物質やカビ毒による脳への影響
1.環境化学物質による脳への影響
世界では現在、10万種類以上の人工化学物質が工業的に生産されていると言われています。
身の回りの化学物質の例を挙げとると、食べ物の添加物や農薬、防虫剤、クリーニング溶剤や柔軟剤、トイレやお風呂の洗剤、床のワックス剤、車の排気ガス…などです。
これらの中で、800物質がホルモンのバランスを乱し、200種類以上が神経毒性を持つことが判明していますが、その毒性が解明されているものはまだほんの一部に過ぎません。
驚くべきことに、私たち日本人の血液や尿からも、さまざまな化学物質が検出されているのです。
環境の化学物質が子供に影響を与えているという証拠が増えています。子どもの病気のパターンの変化、ADHDや自閉症などの神経発達障害の有病率、喘息や特定の小児がんの増加、そしておそらく内分泌機能と生殖の障害に寄与しているというのです。
この有害物質の影響は、脳の発達が完成する12歳頃までに溜まってしまった有害物質を除去していく治療を行うことで、お子さんの本来の能力を発揮できるようにしていくことができます。
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2.カビ毒(マイコトキシン)による脳への影響
マイコトキシンとは、カビが作る有毒物質のことで、300種類以上あり、カビ毒、真菌毒とも言います。マイコトキシンは、神経シグナル(脳機能)の異常を引き起こし、正常な認知(知覚・判断・想像・推論・記憶・言語理解)を混乱させ学習能力に影響を与えます。
カビ毒は、見た目や臭いでは全く感知できません。加工食品、お菓子にも含まれ、身の回りの生活環境の中(洗濯機やエアコンや水筒など)の小さなカビ毒の影響も積み重なり、知らない内に体内に溜まってしまいます。
今では「サイレントキラー」と呼んでいる人もいます。
このマイコトキシン(カビ毒)は、カビに汚染された食品を食べることや生活環境の中で吸入することで体内に入ってきます。
食品でマイコトキシン(カビ毒)が含まれている可能性があるのは、ナッツ類、乾燥果物、穀類、豆類、コーヒー豆、カカオ、トウモロコシ加工品などです。
生活環境については、浴室、トイレ、キッチンの排水口、エアコン内部のフィルターや吹き出し口、加湿器、観葉植物、冷蔵庫、水筒のパッキンの裏などに生えるカビが作る毒素を鼻から吸入することで体内に入ってきます。
さらに、腸内細菌の乱れで腸の中にカビが異常に増えてしまっている場合があります。その腸内のカビが作るマイコトキシンが血液中に入り、血流に乗って脳へ運ばれ、脳への影響が出ている場合もあります。
有害環境化学物質やマイコトキシンによる発達障害の症状や学習障害の症状の報告が、海外では多数みられます。
有害環境化学物質やカビ毒(マイコトキシン)の体内への蓄積があるかどうかについては、検査で調べることができます。
これらの毒素が体内に溜まっていた場合は、なるべく早く除去してあげる(有害環境化学物質やカビ毒の除去の治療をする)必要があります。脳神経が活発に成長していく時期のお子さんに、これらの有害物質がはまり込んで悪影響を及ぼすのを防ぐためです。
腸内細菌の乱れにより、腸内にカビが増えてしまっている場合は、腸内フローラのバランスを整える治療を行うことが大切です。
PANS/PANDAS(風邪などの感染症によるによる脳への影響)
小児急性発症神経精神症候群(PANS)は、風邪などの感染症をきっかけに、突然に強迫神経症状が出たり、偏食になったりする疾患です。
明らかな発熱〜風邪かな?という軽い症状の後すぐに発症する場合と、しばらく経ってから発症する場合と色々あります。
しかし、今までみられなかった症状が、急に出始めるというのが特徴です。
一般に、強迫性障害(OCD)または摂食障害と診断されますが、今まで見られなかった症状が突然の発症するという点が、一般の精神疾患と違う点です。
他に、
- 気持ちの落ち込み
- ネガティブな発言が多くなる
- 自分でコントロールできない不安感が出てくる
- 感覚(音・光・匂い・触覚)の過敏性
- 今まで備わっていた学力が低下したり、文字の読み書きなどが困難になる(学習障害を発症する)
- チック(まばたき、目をまわす、肩をすくめる、咳払い、「アッ、アッ」と声を出すなど)が起こるようになる
- 実年齢より小さい子どもの時に戻ったような行動をする
- おねしょが始まる
- 睡眠障害が出てくる
などの症状が出ます。それまでみられなかった症状が起こってくるというのが大事な点です。
これらの症状のうち1つの症状だけが目立つ場合と、複数の症状がみられる場合があります。
PANSの原因は、感染症、代謝障害、環境化学物質やその他の炎症反応によって引き起こされると考えられています。
風邪かなと思われる発熱の後、急に不安症状が出て、学校にいけなくなる、漢字の読み書きができなくなって勉強が出来なくなってくる、学校でのガヤガヤした音が苦手になる、その他の感覚過敏の症状が出てくる、などの例があります。
風邪症状のあとしばらく経ってから、時間差を持って現れてくる場合も多いので、親御さんも、まさか感染症が原因でこのような症状が出ているとは!?と、気付きにくい場合が多いです。
アメリカでは、発達障害、ADHD、学習障害とこの疾患との関連に関する報告が多くあります。
感染症が影響しているかどうかについては、アメリカの検査を用いて調べることができます。ウイルスや細菌が影響している場合は、それに応じた治療を行なっていきます。
➡︎風邪が不登校・うつ・無気力の原因に!?【風邪によるメンタル疾患とは?】
まとめ
「漢字が正しく書けない」、「バランスよく書けない」、「書き順が覚えられない」などは、「努力していないから書けない」「苦手なら人よりたくさん練習すればいい」と本人の努力不足のように他の人から見られますが、決してそんなことはありません。
今回説明したようなことを確認して、その苦手さが何に問題があってそうなっているか、原因に合わせて対策をしていくことで、少しずつ改善していきます。
それぞれについて総合的にアプローチすると、改善度がアップします。
お子さんの脳は、生まれた後も、神経を発達させて脳が成長・変化をしていきます。
脳が大人の脳に完成する前に、毒素などの間違ったパズルピースがはまってしまうと、脳の機能に影響を及ぼします。
脳の発達が完成し終わる前に、脳に悪影響を及ぼす因子を取り除くことが大切です。
周り道のようではありますが、少しずつ修正していくことで、お子さんのできることが増えていきます。
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